運用の手引き 学科試験だけで自動車運転免許証を取得することはできません。
しかしベルギーでは無線免許を手にするまで、どのようにしてQSOすれば良いのかを学ぶ方法はありませんでした。つまり学科試験だけでアマチュア無線の免許を取得し、交信できるようになるのです。ですから初心者のオペレーションは、お世辞にも聞いていられるものではありませんでした。再び自動車運転免許証に例えるなら、学科試験だけを受けて免許証を取得した大勢の人が、運転の経験も無しに公道を走っているのわけですから、それを想像してみてください。ベルギーのアマチュア無線は、今まさにこのような状態にあります。
私(筆者)とて、ハムになって初めの数年間は多くの失敗をしたものです(今でも失敗は無くなりませんが、以前よりは随分と減りました)。私は日の浅いオペレータから熟年のハムまでが、手早く「プロの運用」が行っていただくのに参考になればという願いからこの文章を記しました。私が起した失敗の多くは、当時の熟年オペレータの多くによる「必ずしも上手ではない」運用をしたために起こったと思われますが、そのことは責められるべきではないでしょう。ハムバンドでどのように交信をすれば良いか、これまで明確なガイドラインが存在しなかったのですから。
正しい運用を行うことの重要性は軽んじるべきではありません。つきつめると、私達が送信するすべての信号は、ハムであれ、リスナーであれ、あるいはその他、誰にでも傍受できるのです。しかし、それは理由の一つでしかありません。もう一つ心に留めるべき理由は、私達の信号が送信された瞬間、自分の国の代表者として受信をしている人の耳に届いているということです。
ごくわずかな慣例さえ理解すれば、どのバンドにおいても快い送信ができるようになります。これから私がご案内する、良い「運用の方法」への旅にご一緒ください。
1. ハム用語
まずは、ハムに関する正しい用語を身に付けましょう。例えば、「Merit four」ではなく 「Readability four」と表現するのが正しい表現だということを理解してください。また、フォネティックコード、CWの略称、Qコード、ナンバーコード(73/88)等は、日本語に続く第2言語と呼べるほど身に付けた上で使用してください。また、フォネティックコードは、常に正しく使用することが重要です。例えば、"AlfaのA"であり、 "Alaba maのA"と言うのは間違いです。これについては8章(PILEUPS)で詳細にお話しします。
2. 聞くこと
なりたてのハムとしては当然、今すぐにでも交信を開始したいところでしょう。ですが、まずは落ち着いてマイクやキーボード、電信キーから離れ、交信を始める前に、送受信機の「すべての」機能を理解してください。特に送信に関する部分は、初心者が失敗を起こしやすところですから特に注意を払う必要があります。
3. コールサインの正しい使用法
自分のコールサインを正しく使用してください。あなたはこの趣味を楽しむために、厳しい試験に挑み、そして乗り切ってきたはずです。あなたのコールサインはあなただけのものですので、誇りを持ってください。また、コールサインを正しく使用しなければ、合法的)な送信にはなりません。VHF帯において4ZZZというコールサインを聴いたことはありませんか?私が知る限り、これはイスラエルではなく日本の局からの信号です。正しくはJA4ZZZです。コールサインはプリフィックスとサフィックスの組み合わせで構成されています。この間違った使い方はHFにおいても見かけることがあります。例えばあなたの車が盗難に遭ったとしましょう。警察に通報する際に、車両ナンバーの一部だけを告げますか?それとも完全なナンバーを伝えま すか?
4. 礼儀正しく
この文書の中でこの章が最も簡潔ですが、まぎれもなく最も重要な章です。いかなる時も、礼儀正しくいてください!あなたの交信は多くの人が受信しているのです。詳細については'Conflict Issues'の章でお話ししますが、礼儀正しくさえ行動すれば、ハムの世界でもそれ以外の世界でも、長い間その世界を楽しむことができるでしょう。
5. VHF/UHF帯でリピータを使用する際のポイント
これ以降の章はHF帯でDXと交信を前提としていますが、その大部分はVHF/UHF帯などにも該当します。
特にVHF/UHFのリピータは、モービル局やポータブル局にも遠距離通信ができるようにと設置されています。固定局のオペレータは、このことを念頭に置いてください。固定局間のようにリピータを介さずに交信することが可能であれば、わざわざリピータを使用する必然性はありません。
また、誰にもリピータを独占する権利はありません。これはリピータに限らず、あらゆるバンドでの運用についても言えることです。リピータ以外の周波数では、「最初に利用を始めた者が使用、また保持できる(first come, first served, and somehow keep)」という原則がありますが、これはリピータでの交信には当てはまりません。優れた機能を持つリピータは、より多くの人に使用されるべきです。特にモービル/ポータブル局であればなおさらです。
リピータを介した交信の場合、'over'の後に短い余白を入れるのは、良い(あるいは、むしろ避けられない)慣習です。この空白があれば、他局が割って入ることができます。'over'の直後にPTT(Push to Talk)を押して、他局が入ってくることができるようにしてください。
6. どのようにQSOをするのか、何を話せばよいか
はじめてバンドを受信してみると、多くの交信がコールサインとシグナルリポートの交換だけに終始しているかを知って驚いてしまうことがあります。もちろん、全ての交信がこのようなものである必要はまったくありません。私自身、交信を始めて間もない頃は長くて実のある交信を好む、筋金入りのラグチュアーでしたので、こういった交信には嫌悪感さえ持ったものです。でも、このような簡潔な交信が悪いわけではありません。私もある時期を境に、比較的短い交信を好むようになりました。すべて個々の好みの問題なのです。
アマチュア無線はやや技術的な趣味ですが、交信で話す内容は技術的な事柄に限定される必要はありません。かといって、アマチュア無線はスーパーのお買い得情報を交換するためのものではありません。このあたりのバランスは何より大事ですが、あなたがご自身の良識で加減してください。
ただし避けなければならない話題を、具体的に挙げることができます。宗教、政治、営利目的の宣伝活動等がそれらに該当します。また、放送(一方通行の音声や音楽の送信)も禁止されています。
ベルギーの初級免許読本には、「オペレーションの慣習と手順」の章があり、交信の方法が記されています。以下は、その引用に一部追記を加えたものです。
- ある周波数において送信を始める前に、その周波数を他局が使用していないか入念に確認してください。
- 周波数が使われていないことが確認できれば、CQを送信してください(CQは不特定な相手を呼んでることを意味します。これはI seek youが転じたものとされています。また、無線以前の有線通信時代におけるCQについて、Pat(W5THT)のサイトに記述があります)。CQを出す正しい手順は、7章'How to call CQ?'で詳細をお話しをします。
- 交信中におけるコールサイン表示は簡単です。まず相手のコールサインを、そして自分のコールサインを告げます。例えばあなたがON4ZZZZだとすると、「ありがとうございます。マイクをお返しします。ON4XXXX (de) ON4ZZZZ」となります。この順序を容易に覚えるヒントをお教えしましょう。必ず相手に礼儀を尽くし、先を譲るということです。
- 送信の終わりには必ず、自身のコールサインを告げてください。また、コールサインのアナウンス無しで短い送信が繰り返されるような交信の場合、5分に一度は自身のコールサインを告げてください。(国によっては10分とするところもあります)
- 相手から自分へと送信が移行する際は、短くても時間的な空白をおいてください。このようにすれば、他局が交信に割って入ることができるようになります。いつまで待っても入れなくて気分を悪くさせる人を出さないよう、十分に注意を払ってください。
- 一度の送信の間に、込み入った話を複数並行して行わないようにしましょう。一回の送信が長引くだけでなく、複数の話題に触れると、相手が送信する頃には最初に話していた内容を忘れてしまう可能性さえあります。また、相手にとって母国語でない言語で話している場合は、相手に考える時間を十分与えるようにしてください。
- 電話での運用の際には、話し終えた際に'over'と告げるようにしましょう。これは必ずしも必要ではないのですが、便利な慣習です。このように'over'と告げる最適なタイミングは、経験を重ねれば自然と身に付きます。
- CWでは、送信を終える際に'K'の文字を送信します。(これは'Key'の頭文字に由来します)。また、'KN'というコードを終えた送信はより具体的な意味を持ち、直前に示したコールサインの局のみからの返事を期待するという意味になります。
- またCWでは'Stop Keying'の略である'SK'を送ることによりQSOの終了を表します。ですから、'SK'と送れば、その通信は完全に終了することになります。
- 音声通信では、'over and out'という表現は正しくありません。相手に送信を渡すときは'over'、QSOの終了時には'out' とだけ告げます。
ハムというのは経験を積むにつれ、かつては自分も初心者であったことを、ともすれば忘れがちではないか、とある時に気付きました。HFでの'CQ DX'の呼びかけに対し、「DXでない」局が呼びかけるのはよく見かける光景です。また、そのことに対して呼びかけた側が厳しく注意し、呼んだ方が気分を害することになるということも珍しくありません。
この場合、双方に何かしら非があると考えられます。まず呼んだ方(初心者としましょう)ですが、'CQ DX'の呼に対して近距離にいる自分は未だこの時点で応答しない方がよいということを理解するべきでした。また、対するCQを出した局は、とにかく交信をしたいという気持ちから同じような失敗をした頃の自分を思い出して、初心者だとの判断し話し方に配慮をするべきでした。
私自身このような状況に遭遇した場合、この局をログし、実は自分はDXを探している旨を伝えます。ここで殆どの初心者はすぐに私の意図を理解し、それ以降は一段の注意を払うようになります。同時に私との交信をログに記入できた事を大いに喜んでくれることでしょう。まず楽しむことが何より大事です!このように、まず万人にQSOのチャンスを与え、決して初心を忘れないでほしいのです。
7. CQを出す
まず、使用しようとする周波数がだれも使っていないことを確認します。このためには、周波数を聞いてみるだけでなく、実際に呼びかけ、尋ねてみるのです。たとえばSSBにおいては、しばらくモニターした後に、「この周波数は空いていますか?」という質問に続けて自分のコールサインを告げます。しばらく待って応答がなければ、再度同じ質問を呼びかけ、自分のコールサインも告げます。これでも応答がなければ、その周波数上でCQを出してください。
CWやRTTYの場合、'QRL?'と送信します。クエスチョンマークだけで事足りるという考えもあるようですが、意味が不明確となりますから正しいとは言えません。その周波数を既に使用している誰かが、自分のコールサインを尋ねているのだと取り違える可能性があります。この場合、'COP'シナリオが起こる可能性があります(12章参照)
それに対して「QRL?」なら他に解釈のしようがありません。この送信には、周波数の空き状況を確認しているという具体的な意味があるからです。クエスチョンマークだけでは複数の解釈があるため、この状況で使用されたと理解する必然性がないのです。
CWの場合、問いかけた周波数が使用中であれば、次のいずれかの応答があるでしょう。
- R (Received-Roger)
- Y (Yes)
- YES
- QSY
もし呼びかけた周波数が偶然DXpeditionや、稀なDX局が使用していれば、怒鳴られることもあるかも知れません。この場合でも心配は不要です。反応せず、黙って別の周波数に移ればよいのです。あるいは、しばらくモニターして(問いかけてはいけません)その局がどんな局かを確認して、交信を試みるのもよいでしょう。
日常的な交信であれDXであれ、トラブルの多くはオペレーションの最も基本ルールに沿うことで回避できます。なにはともあれ、まず「聞く」というのが、それです。これとともに魔法の合言葉'QRL?'を併用すれば、CQを出すための空き周波数は難なく見つかるはずです。 - CQの悪い例: 「CQ」10回の後に自局コールを2回告げ、応答を待つ
良い例: 「CQ」を2回の後に自局コールを10回告げる (繰り返しますが、4回が最適です!) - CQの際に大事な点はCQではなく、コールサインです。ひょっとすると受信している相手は地球の裏側にいて、受信感度がよくない状況かも知れません。この場合、受信者はCQよりもあなたのコールサインに関心があるはずです。CQ15回、コールサインを1回、そして直ちに「応答を待っています」…というような呼びかけを、私は幾度となく見てきました。これはまったく無意味です。
習うより慣れることです。もしあなた自身経験が不足しているとお考えでしたら、他人の交信に耳を傾けて参考にしてください。そのうちにあなた独自のQSOスタイルが身につくことでしょう。 8. パイルアップ
DXを楽しむ機会が増えると、パイルアップに遭遇する可能性も高くなります。珍局がバンドに現れると、ただちに交信を希望するアマチュアが群がります。その群れは交信が終わると同時に、互いに覆いかぶさるように珍局を呼び出します。このような状態をパイルアップとよびます。
パイルアップを起こしやすいのは、なにも希なDX局ばかりではありません。DXぺディションはよく、無線文化がほとんど皆無の国や地域、ときには無人に近い島を活性化させることを目的に行われます。これを競技と呼ぶならは、限られた時間内にいかに多くのハムと交信を行うことができるかを競う競技です。当然このような状況では、一人でも多くのハムと交信する機会が持てるよう、交信の一つ一つはなるべく手短に終えることが有利になります。参加中のハムは、あなたのQTHや機材、ペット犬の名前などには興味がありません。
このようなDX局やDXぺディションのログに自分のコールが記入されるのに、もっとも確実な方法はなんでしょう?
!doctype>